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エンサークルド・フラックス - 繰り返し可能な光ファイバー損失試験の問題を解決

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概要

サポートや保証の条件としてエンサークルド・フラックス(EF)試験を要求するメーカーがますます増えています。EF が推奨から要件になりつつある理由を知りましょう。

マルチモード・ファイバー光源の不確実性を減らすための鍵

従来は、メーカーが異なる 2 つのテスターで同じマルチモード・ファイバー上の損失を測定すると、最大 40% のばらつきが見られました。エンサークルド・フラックス(EF)とは、マルチモード光ファイバーの励振条件を定義する測定基準です。光ファイバーのパワー損失テスターのメーカーは、異なるメーカーのテスト装置で行うリンク損失測定における測定の不確実性を減らすため、新しい EF 規格への準拠が求められるようになりました。

ANSI/TIA-568.3-D および ISO/IEC 11801:2011 第 2.2 版では、敷設済みのマルチモード光ファイバー・ケーブル設備での光パワー損失測定のファイバー・テスト装置に、エンサークルド・フラックス(EF)適合の LED(発行ダイオード)光源の使用を求めています。

EF 準拠の光源の使用は、TIA-TSB-4979, 現場でのエンサークルド・フラックス励振条件の実施に関する実用的な実装方法で初めて規定されました。

この記事では、EF 試験法およびこれを実施するにあたっての考慮点を説明します。ティア 1 光損失測定を成功させるには、ジグソー・パズルに例えると、4 つのピースが必要になります。それは、LED 光源、基準値、基準等級のコネクター、そして最後に EF です。最適な結果を得るためには、これらのピースをそれぞれ正しく行わなければなりません。

図 1:エンサークルド・フラックス(EF)は、ティア 1 光損失測定を成功させるための最後のパズル・ピース。

光源

マルチモード光ファイバー・リンクをテストする際には、ユーザーには理論的に垂直共振器面発行レーザー(VCSEL)または LED でテストする選択肢があります。しかし、ANSI/TIA-526-14-B で規定される光源は、LED 光源で簡単に達成できる 30 ナノメートル(nm)から 60 nm の間の分光幅でなければなりません。VCSEL 光源の分光幅はたったの 0.65 nm しかなく、必要な 30 nm とは程遠いため、その使用は一部の業界規格に違反することになります。過去の規格には、VCSEL の使用を許可する規定が含まれていたものの、現在では削除され、VCSEL の使用はもはや認められていません。その理由は、光ファイバーへの VCSEL 出射は、異なる VCSEL 光源によって大きな違いがあり、測定の不確実性を許容できないほど増加させてしまうからです。また、VCSEL 出射は限定モード励振であるため、損失測定が楽観的な結果になります(詳細は後述)。

テストに使われる光源は、アクティブな機器の光源と同じであるべきという議論もあります。これは、VCSEL の使用に伴う測定の不確実性、そして IEEE 802.3 で定義される LED 光源をベースにした 10GBASE-SR の損失値を無視するのであれば、悪い考えではないかもしれません。しかし、光ファイバー・システムが VCSEL でテストされている場合、ケーブル配線ベンダーが保証を受け付けるかどうかが、より重要になります。ほとんどは、測定の不確実性を理由に保証を受け付けないでしょう。そのため、ほとんどのテスト装置のベンダーは、お客様に VCSEL のオプションを提供しなくなりました。あらゆるケーブル配線規格と同様、テストに使われる光源の種類を尋ねる責任は、システムをテストおよび保証する個人にあります。定かでない場合は、テスト装置ベンダーのデータシートを見直し、ケーブル配線システムの保証を提供するベンダーの要件を確認してください。

基準値

基準値を間違って設定すると、過度に楽観的なマイナスの損失結果を招く可能性があります。マイナスの結果は、システム受け入れおよび保証の拒否の最大の原因です。マイナスの光損失は、パッシブ・システムでは不可能な光信号の増幅を示唆します。残念ながら、多くの技術者は、未だにバルクヘッド・アダプターを通して基準値を設定し、テスト対象の光ファイバーに接続しています(図 2 参照)。

図 2: バルクヘッド・アダプター経由の基準値設定は間違った方法。

 

業界標準に従い、1 本のテスト基準コードを使用して基準値を設定する必要があります。これは、マルチモード光ファイバーでは方法 B の 1 ジャンパー方法、シングルモード光ファイバーでは方法 A.1 として知られています。図 2 に示すように、バルクヘッド・アダプターを使用して基準値を設定する場合、測定の不確実性はバルクヘッド・アダプター内の損失から始まります。その損失がどのくらいなのか知る方法はないため、測定の不確実性は 1.5 dB にまで達する可能性があります。

バルクヘッド・アダプターでの損失は損失測定から排除されるため、結果的にマイナスの損失になるのです。基準値の設定後に短いジャンパーを追加することでこれを回避することもできますが、測定の不確実性を増す可能性もあります。

図 2 の光ファイバーは、マンドレルに巻き付けられています。マンドレルを使わない場合、最大 0.4 dB の悲観的な結果になり、また光源が全モードまたは限定モードの励振状態であるかによって恐らく不安定になるであろうと考えられます。そのため、完全に良好なリンクも、誤って不合格として表示される可能性があります。

もう 1 つよくある問題として、曲げ不感マルチモード・ファイバー(BIMMF)テスト基準コードの使用があります。これらは、ニ波長テスターには適していません。BIMMF の場合、標準的な 25 mm のマンドレルでは 850 nm で高次モードを除去することができず、悲観的な 850 nm の損失結果につながります。まるでマンドレルが全くないのと同じようなパフォーマンスになります。4 mm のマンドレルを使用できますが、1300 nm の測定値が不正確になります。

信頼できる測定値を得るには、入力ポートに交換型アダプターを付けた光ファイバー・テスト装置が必要です。これにより、TIA、そしてケーブルの保証を提供するケーブル・ベンダーの要件に従って、1 ジャンパー基準値を設定できるようになります。また、適切なアダプターとテスト基準コードを購入することも重要です。適切な光ファイバー装置は持っているものの、適切なアダプターやハイブリッド・テスト基準コードを持っていない敷設業者が多すぎます。

フルーク・ネットワークスは、アニメーションによるセットアップ画面(図 3 参照)を使用して技術者に基準値設定プロセスを案内する自動ウィザードを CertiFiber™ Pro で提供しています。これを使用すれば、敷設業者は 1 ジャンパー方法を使用して正しく基準値を設定できます。

図 3: 不適切な基準値に対応するため、テスト装置のベンダーは、基準値設定プロセスを案内する自動ウィザードを作成しています。

基準等級のコネクター

質の悪いテスト・コードは、一貫性のない悪い結果をもたらします。光ファイバー・ケーブルのテストには、損失が 0.10 dB 未満のマルチモード光ファイバー用の基準等級のコネクターが必要です。損失がこれだけ低い理由は何でしょうか?ISO/IEC 14763-3 では、最初と最後の接続部がマルチモード損失 0.3 dB 未満、シングルモード損失が 0.5 dB 未満と規定しており、これを達成できるのは基準等級のコネクターだけです。同規格で規定していることはそれだけではありません。低損失(0.35 dB 未満)マルチファイバー・プッシュオン(MPO)LC モジュールの登場により、テスト・コードの終端コネクターは、損失がいつもの 0.5 dB よりも低いものでなければなりません。0.35dB 未満の低損失は、損失が 0.15dB 未満を定格とする LC コネクターにより実現されます。したがって、テスト・コードの損失が 0.15 dB 未満でなければ、モジュールで 0.35 dB 未満の低損失を実現する可能性は低いです。

1 ジャンパー基準値を使用する場合、テスト基準コードを検証できます。1 ジャンパー基準値が設定されると、入力ポートからコードを取り外します。次に、品質の高いコードを入力ポートに差し込み、シングルモードのバルクヘッド・アダプターを使用してメイン・ユニットとリモート・ユニットを接続し、テストを実行します。損失結果を保存し、システム・ドキュメンテーションの一部にします。テスト結果を確認する者は、測定値を信頼することができるでしょう。また、2 つのテストが別々の日に行われ、結果が異なった場合の責任の追及を減らすことができます。1ジャンパー基準値を使用し、テスト基準コードを検証することで、光損失試験の一貫性を大幅に向上させられます。しかし、ベンダーが異なるテスト装置間で、40% の不確実性をもたらす要素がもう 1 つあります。それは、光源から光ファイバーへの入射光です。ここで、欠けているパズルの最後のピース、EF の出番です。

エンサークルド・フラックス

1 ジャンパー基準値を設定し、テスト基準コードの損失が 0.1 dB 未満であることを検証すれば、異なるベンダーの装置を使用しても同じ結果が出ると期待するでしょう。しかし、残念ながらそうはなりません。TIA 規格は、異なる光源により生じる測定の不確実性を減らすため、結合パワー比(CPR: Coupled Power Ratio)の形式でマルチモード光源の励振条件を定義しています。

光源の励振条件を正しく指定するため、新しい規格では真ん中部分の 5 µm だけでなく、50 μm の端面全体を指定しなければなりません。EF はテンプレートを使用して、端面全体のモード・パワーを指定します。ここで 1 つ重要なのは、テスト基準コードの端まで EF の要件を満たさなければならない点です。最新の生産技術により、EF に適合した光源を作ることは難しくありません。問題は、テスト基準コードを追加した時に、テスト基準コードの端まで EF テンプレート内に収まらなければならないことです。

TIA-TSB 規格では、EF の要件を満たすための 2 つのオプションを規定しています。1 つめは、外部の励振調整器の使用です。このオプションの最大の利点は、どのような LED 光源も EF 準拠のソリューションに変えることができ、テスト装置を新たに購入する必要がないことです。その反面、外部励振調整器の高いコスト、その大きさ、終端のコネクターが壊れた時に機器の交換が必要になることを知った時には、ユーザーの抵抗は避けられません。

図 4: EF 励振条件を達成する最も簡単な方法は、EF に準拠した光源と調整済みのテスト基準コード(TRC)を使用することです。

 

TSB は、2 つめのオプションとして、EF に準拠した光源とそれに接続される調整済みのテスト基準コードの使用を挙げています(図 4 参照)。これは、メーカー独自のソリューションとなりますが、励振調整器よりも安く、かつ小さく済みます。ただし、新しいテスト装置の購入が必要になります。既存のテスト装置の入力ポートが固定され、1 ジャンパーの LC 接続ができない場合、新しい規格に合わせて光ファーバーのテストを EF と 1 ジャンパーの両方に対応できるように、2 世代分のテスターを飛ばし、新しい装置に乗り換えるのは道理にかないます。フルーク・ネットワークスは、EF 規格準拠のテスターと一緒に使用でき、信頼性のある繰り返し可能な測定を可能にする EF 規格に準拠したテスト基準コード(TRC)を作りました。

まとめ 

EF は、システム受け入れに大きな影響があります。特に、低損失コンポーネントを設置する場合にその影響が顕著になります。ベンダーが提示する仕様に基づいたカスタマイズされた損失バジェットに基づいて運用することは、かつてないほど利幅が厳しくなります。ケーブル敷設業者は、光ファイバー・テストで EF 規格に準拠しなければならなくなりました。そのため、お使いのフィールド・テスト手順を見直し、敷設業者が以下の最新のベストプラクティスに従っていることを確認してください。

  • バルクヘッド・アダプター経由で基準値を設定しないでください。
  • 少なくとも、高次モードを除去するのにマンドレルを使用します。ただし、マンドレルは EF アダプターに代わるものではないことを忘れてはなりません。
  • 楽観的な結果を避けるため、光源として VCSEL ではなく、LED を使用してください。
  • 入力ポートに交換型アダプターを使用する光ファイバー・テスト装置に投資してください。
  • テスト基準コードを検証し、テスト・コードとして BIMMF を使用しないでください。
  • 測定値を保存し、ドキュメンテーションの一部にするようにしてください。
  • 励振調整器または独自ソリューションを使用するかに関係なく、お使いの手順とテスト装置が EF に準拠していることを確認してください。ベンダーは、故障したシステムをトラブルシューティングするためにエンジニアを派遣する前に、1 ジャンパー EF 準拠の測定値を求めるようになったことを覚えておいてください。敷設業者は、この情報を提供できるように備えなければなりません。

EF は、テスト装置メーカーが独自に作り出したものではなく、ANSI/TIA-568.3-D および ISO/IEC 11801:2011 第 2.2 版に基づく必須条件となりました。光源によって、励振条件に違いがあります。当初は、EF の測定基準について混乱がありましたが、現在はその方法および適切なテスト装置に関して、業界で意見が完全に一致しています。ここ数年前までは、マルチモード光ファイバー光源の励振状態を定義する精密な方法および測定基準は必要ありませんでした。しかし、損実バジェットの厳しさが増し、システムのデータレートの高速化に伴い、現在では EF は測定上の重要な考慮事項になりました。

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