ホワイトペーパー

データ・センター − テストの場所および対象

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概要

企業ネットワークの中心であるデータ・センターは、すべての情報の送信、アクセス、保管を可能にします。企業のローカル・エリア・ネットワーク(LAN)はケーブル配線によりスイッチ、サーバー、ストレージ・エリア・ネットワーク(SAN)、およびすべてのアプリケーション、トランザクション、通信をサポートするその他のアクティブな機器に接続されます。LANもまたケーブル配線により、インターネットや同じ施設外の他のネットワークへのアクセスを提供するサービスプロバイダーネットワークに接続されます。

情報量やアプリケーション数の増加に伴い、これまでにない多くの機器やリンクを収容するために、規模の大小を問わずすべてのデータ・センターはその能力を拡張しています。同時にこういったデータ・センターでは、機器間で高帯域幅、低レイテンシのデータ伝送を実現する必要があります。データセンターの規模や種類、スイッチング・トポロジー、アプリケーションに関わらず、データセンターの機器を接続するために必要なリンクすべてを形作るケーブル配線インフラの構築は、業界規格によって確立された同じ基本設計原則に従っています。

ANSI/TIA-942-A データ・センター向けインフラ規格は、TIA-568 ケーブル配線規格を参照していますが、データ・センターに対応したその他の情報が追加されています。この規格はデータセンター固有の機能領域について概説し、パスウェイとスペース、バックボーンと水平ケーブル媒体の距離、冗長性、ケーブル管理および環境配慮に対する最小限の推奨事項を提供しています。TIA-942-A と同様に、ISO/IEC 24764 Information technology - Generic Cabling Systems for Data Centres情報技術 - データ・センター向け情報配線システム)や、ANSI/BICSI 002-2014 Data Center Design and Implementation Best Practices(データ・センターの設計および導入のベストプラクティス)などのデータ・センター規格も、スケーラビリティと信頼性を考慮した機器の設置を定義し、データ・センターのさまざまな機能エリアを説明しています。

データ・センターのどの機能エリアをテストするかによって、使われているアプリケーション、ケーブル配線、接続は異なります。データ・センターの機能エリア、そして各エリアで必要なテストを理解することで、データ・センターのテストを適切に行うことができます。

最初の引込室 (ER)

回線が引き込まれる場所である ER(引込室とも呼ばれます)には、サービス事業者のネットワークの分界点があります。構内環境内などにおいて、他の建物へのバックボーン配線の分界点が含まれる場合もあります。ER にはサービス事業者の機器が収容されており、サービス事業者の要件に応じて、データ・センターの内部または外部に配置されます。大規模なハイパースケールまたはコロケーション・データ・センターでは複数の ER が設けられ、複数のサービス事業者へのアクセスを提供する場合があります。

ER は、屋外ケーブル配線がデータ・センターのバックボーン配線につながる場所です。音声サービス用の多心 OSP メタル線ケーブルが EF で使用されている場合もありますが、ここで主に見られる配線は 40GBASE-LR4、100GBASE-ER4、100GBASE-LR4 などの 40 および 100 ギガ・アプリケーション実行するシングルモード・ファイバーです。また、10GBASE-SR、40GBASE-SR4、100GBASE-SR4 などの 10、40、100 ギガ・アプリケーションを実行する近くの構内の建物から、マルチモード・バックボーン光ファイバーが引き込まれる場合もあります。

ER で OSP ファイバーから構内ファイバーにつなげるための成端方法としては、融着接続が最も一般的です。サービス事業者の機器に接続するためには、デュプレックス・シングルモード・ファイバーを収納したファイバー・パネルが使用されます。近くの建物から引き込まれたバックボーン屋内/屋外光ファイバーは、ER を通り抜け、直接主分配エリアに接続されることもあります。

ER では何をテストするのでしょうか?ほとんどの場合、サービス事業者の分界点が設けられており、テストはサービス事業者によって行われますが、ここから他の建物に接続されたシングルモードまたはマルチモードのバックボーン光ファイバーのテストが必要なことがあります。建物間の屋外ケーブル配線が長い、物理的な検査が難しい、一般的に融着接続が使用されているといった理由から、これらのスペースでは、フルーク・ネットワークスの OptiFiber®Pro などの OTDR(光パルス試験器)を使って Tier 2 テストを行うことが推奨されます。このテストによってスプライスの位置を特定し、トラブルシューティングで高損失が測定される原因を明確に判断できます。

光損失測定テストは、挿入損失がアプリケーションの要件を満たしていることを確認するために、構内光ファイバー・バックボーンの認証にも一般的に使用されます。また ER では、40 および 100GBASE-SR4 などの高帯域マルチモード・アプリケーションをサポートするために、マルチファイバー(12 芯)MPO 接続が使用されている場合も多くあります。MPO 接続をテストする場合、デュプレックス・テスターでは、MPO − LC ファンアウト・コード、3 コード基準法を使い、15 の手順を踏んでデュプレックス光ファイバーの各 6 ペアをテストする必要がありますが、MPO テスト機能を備えたテスターを使うと、非常に高速かつ正確にテストできます。

次の主分配エリア (MDA)

分配の中心である MDA には、LAN、SAN、およびデータ・センターの他のエリアに接続するためのコア・スイッチやルーターが設置されています。このエリアは、データ・センターの複数の水平分配エリア (HDA) または機器分配エリア (EDA) だけでなく、施設内の各通信室 (TR) につながっています。MDA では通常、高密度バックボーン・マルチモードまたはシングルモード・ファイバーのクロスコネクトが使用されています。特に、マルチモードは伝送機器のコストが低く距離が短いため、データ・センターの他のエリアに接続するために最も一般的に利用されています。40 や 100GBASE-SR4 などの高帯域アプリケーションに対応するために、このスペースでは、デュプレックス・ファイバー接続に加え、マルチファイバー MPO 接続が多く使用されるようになってきています。

データ・センターには必ず MDA が 1 つ以上あります。通常はデータ・センター内に設けられていますが、大規模なコロケーション施設では、MDA を別の安全な場所に配置する場合もあります。小規模なデータ・センターの MDA では、水平クロスコネクトを使用して、MDA から直接つながる EDA の機器に接続する場合もあります。

MDA では何をテストするのでしょうか?MDA では、主にデュプレックス LC/SC 接続またはマルチファイバー MPO 接続を使用した、シングルモードまたはマルチモード・ファイバーのテストを行います。これらのリンクのもう一端は、中間分配エリア、水平分配エリア、または機器分配エリアに配置されます。テストする必要のある主な性能パラメーターは、挿入損失です。これは特に、挿入損失要件が厳しい 40 や 100GBASE-SR4 アプリケーションをサポートするために重要にパラメーターです。光損失測定試験セットは、最も正確な損失測定値を提供します。

オプションの中間分配エリア (IDA)

IDA は、複数の階や部屋に分散する大規模なデータ・センターで使用される任意のエリアです。ISO/IEC 24764 規格で Intermediate Distributor(ID)と呼ばれる IDA には、中間クロスコネクトも含まれる場合があり、データ・センターの拡張、または特定のアプリケーションのセグメント化に対応できるよう設計されています。各部屋または各階には、データ・センター内の水平分配エリア (HDA) や機器分配エリア (EDA) につながる複数の IDA が設けられ、データ・センター外には複数の TR が設置されます。

通常 IDA には集約スイッチや光ファイバー・クロスコネクトが配置され、接続の種類は MDA で使用されるものと似ています(光ファイバー・エンクロージャーには、マルチモードまたはシングルモードのいずれか、デュプレックス・ファイバー・コネクターまたは MPO のいずれかが収納されています)。IDA では MDA からつながる光ファイバー・リンクのもう一方の端をテストします。ここでも挿入損失は重要なパラメーターであり、光損失測定試験セットを使用することで、最も正確な結果を得ることができます。

中間の水平分配エリア (HDA)

データ・センターの規模が非常に小さく、水平クロスコネクトを介して MDA ですべての機器を直接サポートできる場合は、HDA が設けられないこともありますが、ほとんどのデータ・センターでは少なくとも 1 つ HDA が設けられ、EDA の中継地点としての役割を果たします。ただし、アクセス・スイッチが EDA の各キャビネットに設置され、IDA または MDA のスイッチに直接接続するトップ・オブ・ラック (ToR) が用いられている場合は、HDA は必要ありません。

バックボーン配線が水平配線につながる LAN の TR と同様に、HDA には、EDA に配置された機器(サーバーなど)につながる集約スイッチ、アクセス・スイッチ、SAN スイッチ、キーボード/ビデオ/マウス (KVM) スイッチが設置されています。通常、大規模なデータ・センターには、データ・センターの複数の EDA に対応するために、HDA が複数設けられています。HDA は、別のエリアに一か所に配置したり、対応する機器のエンド・オブ・ロー (EoR) または ミドル・オブ・ロー (MoR) に配置したりすることができ、HDA と EDA はすべて 1 つの列内でテストされます。

MDA(または IDA)の光ファイバー・バックボーン配線は HDA で終端し、より大きなコア・スイッチにファイバー・アップリンクを提供します。したがって HDA には、MDA と同様の光ファイバー接続が使用されています。MDA の光ファイバーは MPO トランク配線を使用する場合がありますが、ここに設置されるスイッチの速度は遅いため、通常このスペースのファイバー・パネル前面の接続にはデュプレックス LC/SC 接続が使われます。

また HDA では水平クロスコネクトとカテゴリー 6 以上のメタル線接続が使用され、1000BASE-T や 10GBASE-T などのアプリケーションを介してスイッチを EDA に接続しています。したがって HDA では、メタル線と光ファイバー配線両方(MDA または IDA への光ファイバー・アップリンク、EDA へのメタル線リンク)のテストを行わなければならない可能性があります。また将来、データ・センターのこのエリアには、現在策定中の 25GBASE-T や 40GBASE-T アプリケーションをサポートするために、カテゴリー 8 配線が使用されることが予測されます。このスペースではさまざまな性能レベルに遭遇する可能性があることから、フルーク・ネットワークスの DSX ケーブルアナライザー™ シリーズ・テスターのような、カテゴリー 5e~カテゴリー 8 をすべてテストできるメタル線認証テスターを使用することが推奨されます。DSX シリーズに OTDR や損失モジュールを追加すると、光ファイバー・テストも実行でき、より柔軟な使用が可能になります。

またはゾーン分配エリア (ZDA)

通常、オプションの ZDA は企業データ・センターでは使用されません。基本的に、HDA と EDA をつなぐ水平配線内の統合点として機能し、稼働機器は設置されません。クロスコネクトを含めることは推奨されませんが、EDA からの水平配線接続の終端にインターコネクトを含めることがあります。ZDA は、HDA 内にパッチ・パネルを取り付けて、EDA に接続することができない場合に便利です。また、ZDA を設けることで、非常に大規模なデータ・センターを簡単に再構成することができます。統合点の場合と同様に、HDA と ZDA をつなぐメタル線のパーマネント・リンクを個別にテストしたうえで、ZDA を含む HDA から EDA へのリンク全体をテストし、ZDA での終端に関する問題を排除することが重要です。

最後の機器分配エリア (EDA)

EDA は、キャビネットやラックに設置されたサーバーやストレージ機器などのエンド機器に割り当てられるスペースです。アプリケーション数の増加、サーバー仮想化の普及により、通常 EDA 内のスペースは極めて貴重です。ここでは前述のカテゴリー 6 以上のメタル配線などの HDA(あるいは ZDA)からの水平配線は、つながった機器に対応したキャビネットまたはラック内のパッチ・パネルで終端されます。こういったアクセス・スイッチとサーバー間の接続に最も多く使用されるのは 10GBASE-T です。将来、データ・センターのこのエリアにも、現在策定中の 25GBASE-T や 40GBASE-T アプリケーションをサポートするために、カテゴリー 8 配線が使用されることが予測されます。

EDA は、機器間のポイント・ツー・ポイント配線も可能にします。たとえば ToR の場合、一般的に EDA の各キャビネットにアクセス・スイッチが設置され、MDA または IDA に直接接続するため、HDA は必要がありません。ToR アプリケーションにおいては、ToR アクセス・スイッチから同じキャビネット内のサーバーに直接接続するには SFP+ または SFP28 Twinax ダイレクト・アタッチ・ケーブル (DAC) が使われることが多く、SAN スイッチからストレージ機器への接続には、より高速の QSFP+ および QSFP28 DAC が使用されるのが一般的です。SFP/QSFP モジュールをテストする際は、電力が適切に供給されていることを確認する必要があります。

実証済みのベストプラクティス

光ファイバーを使用する際は、端面検査とクリーニングを行い、良好な衛生状態を維持することが大変重要になります。光ファイバーの汚れは性能低下の原因となるだけでなく、汚れがパッチ・コードから機器ポートに移動し、トランシーバーの破損を招く恐れもあります。袋から出したばかりの新しいコードでも、接続する前に必ず検査をして、汚れがないことを確認してください。汚れている場合は、きれいにしてから再検査し、汚れが取れたことを確認します。

多くのデータ・センターの各ラックには、光ファイバーをきれいな状態に保つために、簡単に使える光ファイバー・クリック・クリーナーが Velcro(R) テープで取り付けられています。

データ・センターでテストを行う場合は、常にベスト・プラクティスを実践する必要があります。まず、マルチモード・ファイバー・リンクのテストに関しては、40 および 100 ギガビット・リンクの業界規格によって、エンサークルド・フラックス (EF) 準拠テストが義務付けられています。さらに、曲げ不感性マルチモード・ファイバー (BIMMF) の需要拡大に伴い、EF 方法を用いることの重要性が高まってきました。これは、マンドレルでは、BIMMF によって光ファイバー・コアに閉じ込められた高次モードを排除するための十分な曲げを得ることができないためです。また過度に楽観的な結果が出るのを防ぐために、非 BIMMF テスト・コードを使うことも重要です。

マルチモード・ファイバー・テストにおいてもう 1 つ重要なベスト・プラクティスは、1 コード基準法を使用することです。2 コード基準法の方が簡単に見えますが、両方のテスト・コードを基準にすると、過度に楽観的な結果を招き、マイナスの損失結果が出る可能性があります。1 コード基準法は、チャネル両端の接続損失を最も正確に測定します。さらに、ケーブル敷設業者の多くは、2 コード基準法で実施された結果を認めないため、保証を受けることができないことがあります。

MDA の ER で OTDR を使用して Tier 2 テストを実施する場合、コネクターやスプライスなど特定のイベントの損失や全体のリンク損失の測定値は、実施される測定の方向によって変わってきます。そのため、リンク両端で行われた測定の平均値を提供する双方向テストが必要となります。以前は双方向テストには時間がかかりましたが、現在は OTDR を使って簡単に実行することができます。このテストでは、遠端のループが使用され、一端のテスト結果を基にしてリンクの双方向平均値が自動的に報告されます。

データ・センターでのメタル線テストにも考慮すべき重要な点があります。エイリアン・クロストークは、10GBASE-T の機能に影響を与える可能性がある重要な性能パラメーターです。10GBASE-T はデータ・センターのスイッチ・サーバー間リンクによく使われるため、システムを保証するには多くの場合エイリアン・クロストークのテストが必要になります。多くの場合、テストはサンプル・サイズあるいはケーブル敷設業者の要件に基づいて行われます。エイリアン・クロストークのテスト用サンプル・サイズを指定する際は、等しい数の短い、中程度、長い障害リンクをテストすることが推奨されます。

メタル線テストにおいてもう 1 つの考慮すべき点は、シールドの完全性です。シールド付きメタル配線は、データ・センターで最もよく見られます。カテゴリー 8 配線はシールド付きケーブルです。シールド付き配線は、シールドなし配線に比べて優れたノイズ耐性を備えており、正しく取り付けられている場合は、シールド付き配線システムでエイリアン・クロストークをほぼ完全に排除できます。しかし、適切に取り付けられていなければ、シールド付き配線であっても良好に機能しません。データ・センターでシールド付き配線を使い、接地されたパッチ・パネルを別の接地されたパッチ・パネルに接続している場合、ケーブルのオープン・シールドがあるとエイリアン・クロストークのテストで不合格になる可能性があります。多くのテスターは、メイン・ユニットのシールドとリモート・ユニットのシールド間の導通を確認しますが、直流信号は、パッチ・パネルとラックが接続されている共通の建物の地面を通じてなど、さまざまな形でリモート・ユニットに達します。この場合、シールドが接続されていない場合でも接続されていると表示されてしまいます。シールドの完全性を確認できるテスターを使うことで、この問題を回避できます。