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パワー・オーバー・イーサネットの設置ガイド

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概要

何年も前にツイスト・ペア・ケーブルで電力供給とデータ通信を同時に実現する方法が考案され、パワー・オーバー・イーサネット (PoE) が誕生しました。以後数年の間に、同じケーブルを介して給電、受電、データ通信を行う機器が多く発売され、常に新製品が開発されています。

パワー・オーバー・イーサネットの設置ガイド

ほとんどの場合、PoE を用いると電源コンセントが必要なくなるため、重複した配線に伴うコストや手間を排除できます。機器の別電源をなくすことで、障害箇所を少なくすることもできます。また、PoE は低電圧を使用し、安全であるため、電源ケーブルを使用する機器と違い、電線管や配電盤などの厳しい要件は必要ありません。

PoE 回路は 3 つ要素で構成されています。

  • データ信号線で電力を供給する給電機器 (PSE)。最も一般的な給電機器にはスイッチがあります。または、スイッチで給電できない場合はミッドスパン・インジェクターも使用されます。
  • データとデータ信号の両方を伝送するケーブル。2 ペアまたは 4 ペアのツイスト・ケーブル配線を規定する PoE の IEEE 規格。
  • PSE によって供給される電力を消費する受電機器 (PD)

図 1. PoE の基本設計と名称

IEEE 標準の PoE の実装では、PD から要求された後にのみ PSE から電力が供給されます。PD が切断されると、PSE は電力を遮断します。このため、通常のコンセントの直流電源を使用するよりも、PoE ははるかに安全です。また、PoE は低電圧(43~57 Vdc)を使用します。

初めての PoE 規格である 802.3af は 2003 年に採用され、2 ペアで最大 15.4W の電力を供給します。2005 年に採用された 802.3at(別称「PoE+」)の給電能力は最大 30W です。Cisco が開発した「Universal PoE」(UPOE)では、4 ペアすべてを使用して最大 60W、2018 年 9 月に IEEE によって承認された 802.3bt では、90W の電力供給が可能です。

 

  タイプ 3(802.3bt) タイプ 4(802.3bt)
タイプ 1(802.3af) タイプ 2(802.3at)  
PSE クラス 1:
4 W
クラス 2:
7 W
クラス 3:
15.4 W
クラス 4:
30 W
クラス 5:
45 W
クラス 6:
60 W
クラス 7:
75 W
クラス 8:
90 W
  2 ペアのみ(タイプ 1 & 2) 常に 4 ペアを使用
2 ペアまたは 4 ペア(タイプ 3 & 4)
PD クラス 1:
3.84 W
クラス 2:
6.49 W
クラス 3:
13 W
クラス 4:
25.5 W
クラス 5:
40 W
クラス 6:
51 W
クラス 7:
62 W
クラス 8:
71.3 W
  PoE+ PoE++、UPOE  


図 2: PoE クラス、タイプと規格。

 

PoE の適切な実装は 3 つのプロセスによって保証されます。

1.  機器の選択

2. ケーブル認証

3. 敷設とトラブルシューティング

各ステップの要件について見ていきましょう。

1.  機器の選択

PoE は多くの利点を提供しますが、規格化に関する大きな問題があります。「PoE」という用語は登録されていないため、どんな業者でも PoE 機能を主張できます。現在、承認済みの IEEE 規格は 3 つあります(802.3af、802.3at、802.3bt)。これらの規格は、8 つ異なるワット・レベルまたはクラスを規定し、4 つの構成で提供されます。タイプ 1 と 2 は 2 ペアを使用し、タイプ 3 と 4 は 4 ペアを使用します。さらに、PoE+ および PoE++、Cisco の Universal PoE (UPOE) など、システム業者によって採用された用語もあります。これらの技術はすべて IEEE 規格に適合していますが、規格外の PoE を実装する業者もいるため、多くの混乱が生じています。たとえば、「パッシブ」PoE の実装では「常時オン」の状態で電力が供給され、PSE と PD はネゴシエーションを行いません。その他の実装では、LLDP プロトコルよりも高い層で電力レベルがネゴシエートされます。このため、現場の技術者だけでなく、設計者の間にも対応機器の組み合わせについて混乱が生じています。当然のことながら、800 を超える敷設事業者、インテグレーター、エンドユーザーを対象にした調査では、5 人の回答者のうち 4 人が PoE システムの統合に問題を抱えていることがわかりました。

イーサネット・アライアンス 認証プログラム

この混乱を解消し、相互動作性を強化するために、Ethernet Alliance(PSE スイッチ機器の 90% を提供するメーカーが参加するコンソーシアム)は、PoE 認証プログラムを発表しました。このプログラムは、Ethernet Alliance 参加メーカーの製品と IEEE-802.3 に基づいたその他の PoE 対応製品の相互動作性を認証する方法を提供し、認証された製品にはラベルが付けられます。

製品の認証は、承認済みの機器を使用した 300 ページにわたるテスト計画によって定義されます。これは、メーカー、またはニューハンプシャー大学相互運用性研究所(UNH-IOL) などのサードパーティによって実施される場合があります。PSE および PD 両方の機器が認証されます。この厳格なプロセスに合格した機器には、下に示す EA 承認マークのラベルが付けられます。

設計者や PoE 機器の設置業者は、PSE と PD に付けられたマークを比較するだけで適合性を確認できます。PSE の定格が PD の要件以上の場合は機能性が保証されます。

 

図 3. 受電機器(左)と給電機器(右)の Ethernet Alliance マーク。

2. ケーブル認証

PoE は、規格カテゴリーのツイスト・ペア構内配線ケーブルを使用するよう設計されています。しかし、高速データを伝送するケーブルにこれらの高電力信号を加える場合は、ケーブル配線はその他の追加要件を満たす必要があります。

まず、ケーブルの全体抵抗が低くなければなりません。高すぎると、PSE と PD 間で電力が浪費され、PD は必要な電力を受けることができません。

次に、PoE では、2 ペアまたは 4 ペアにコモン・モード電圧を印加することで電力を供給し、電流は 2 つたまは 4 つの導体に均一に分割されます。これを実現するには、ペアの各導体の DC 抵抗のバランスが取れていなければなりません(等しくなければなりません)。差は DC 抵抗アンバランスと呼ばれます。アンバランスが大きいと、イーサネットのデータ信号に歪みが発生し、ビット・エラー、再送信の原因となり、データ・リンクが切れることもあります。

最後に、タイプ 3 および 4 の実装では、各ペアの直流抵抗アンバランス以外にも考慮しなければならないことがあります。複数のペア間で過度の直流抵抗アンバランスが発生すると、データ伝送に悪影響を与え、PoE が機能しなくなる可能性があります。

IEEE はこの抵抗測定の重要性を認識し、1 ペア内のループ抵抗と抵抗アンバランスの要件を 802.3 規格に盛り込みました。また、米国電気通信工業会も ANSI/TIA 568.2-D でこれらの要件を規定しています。

残念ながら、ほとんどの設置は TIA-1152-A フィールド・テスト規格に基づいて認証されており、これらの測定は義務付けられていません。各導体が IDC 内に適切に装着されておらず、成端処理に一貫性がない場合、直流抵抗アンバランスが発生する可能性があります。ベンダーのケーブルには DC 抵抗アンバランスの仕様が記載されていることもありますが、DC 抵抗アンバランス性能を確認するには、敷設後に現場試験を必ず行う必要があります。

これらの抵抗測定値を含むケーブル認証テスター(フルーク・ネットワークス DSXCableAnalyzer™ シリーズなど)を使用すると、ペア内およびペア間で DC 抵抗のバランスが取れていないことをすばやく簡単にテストできます。したがって、導入するケーブル・プラントは 2 対および 4 対の PoE アプリケーションで動作することが保証されます。

図 4. ペア間の抵抗アンバランスの結果を表示する Versiv。

3. 敷設とトラブルシューティング

PSE の能力と PD の要件を把握すると、敷設とトラブルシューティングを簡単に行えます。残念ながら、現実には、PoE 受電機器を扱う技術者がこれらの情報にアクセスできないことがあります。EA によって認証された PD の要件は簡単に確認できますが、ほとんどの場合、技術者は PSE から離れた場所で作業を行っているため、スイッチの能力を確認するには、配線室やデータ・センターまで長い距離を歩かなければなりません。そして次に、PD に接続されたケーブルを見つける必要があります。技術者が PSE にアクセスできないことも多くあり、その場合は IT 担当者に連絡して確認しなければなりません。技術者は、ケーブルの検出とスイッチへのアクセスに半日を無駄にすることもあります。

フルーク・ネットワークスは、これらの問題を解決し、技術的なフラストレーションを軽減するために、次の 2 つのツールを開発しました。LinkIQ™ ケーブル + ネットワーク・テスター および MicroScanner™ PoE。いずれかのツールをケーブルに接続するだけで、PSE に接続されている場合は、リンクで使用可能な電力のクラス(0~8)が表示されます。技術者はこの結果を PD の要件と比較することで、十分な電力を供給できるかどうかを確認できます。LinkIQ は、PSE に負荷をかけてさらにテストすることで、スイッチとケーブル・リンクが表示電力を供給できるかどうかを判定します。MicroScanner™ PoE は、イーサネット・アライアンス Gen2 PoE 認定プログラム・テスト・プランを正常に完了済みであり、すべての IEEE 準拠デバイスで正しく動作することを保証します。このテスターは、IEEE に準拠していないさまざまなテクノロジーでも動作するようにも設計されていますが、対応する認証プログラムがないため、弊社の表明を信用してください。

これらのテスターは、他の多くの面でも技術者にとって非常に貴重です。最大 10Gbps のポート速度を特定します。通信速度の遅いポートによって、アクセス・ポイントやカメラの性能が制限されることがあります。ケーブルが損傷している場合は、各ペアの長さ、破損の可能性、またはその他の障害が表示されます。また、ケーブルのプラグを抜かれたり、配線を間違えたりすることもあります。そのため、テスターはケーブルをトレースするためのトーン・ソースとしても機能できます。識別装置を離れたケーブルに接続することで、ケーブル経路を特定できます。LinkIQ には、次のような追加機能があります。接続されているスイッチの名前、ポート、および VLAN 番号を表示する、最大 10Gb/秒 のケーブル接続のパフォーマンスの特性評価。最後に、LinkIQ はケーブル配線またはスイッチのレポートを生成し、人気のある LinkWare™ PC ソフトウェアを使用して保存または印刷できます。

適切な機器の選択、ケーブル能力の認証、技術者による敷設の確認とトラブルシューティングによって、 PoE プロジェクトを良好に進めることができます。

図 5. MicroScanner PoE は Ethernet Alliance Gen2 PoE 認定を受けており、PSE の供給電力、およびネットワーク速度も検出し、一連のケーブル・テスト機能を搭載しています。

図 6.: LinkIQ ケーブル + ネットワーク・テスターは、ケーブル・パフォーマンスの特性を評価し、スイッチ・ポート情報を表示し、PoE を検出して負荷を与え、徹底的な測定を行います。
 

 

 

MicroScanner PoE

LinkIQ

DSX CableAnalyzer

ケーブルのトラブルシューティング

x

x

x

ケーブル・パフォーマンス・テスト

 

10 MB/秒~10 Gb/秒

TIA、ISO、および国際規格の認証を取得済み

PoE の抵抗測定

 

 

x

スイッチ・ポート速度の識別

x

x

 

スイッチ・テスト(名前、ポート、VLAN)

 

x

 

PoE ポート・テスト

x

x

 

負荷あり PoE ポート・テスト

 

x

 

レポート

 

LinkWare PC

LinkWare PCLinkWare Live

図 7. PoE デバイスとケーブル配線用 フルーク・ネットワークス・テストの比較