直流抵抗不平衡:知っておくべきこと

2025 年 5 月 20 日 / 一般、 学習、インストールとテスト、アップグレードとトラブルシューティング

ANSI/TIA-568.2 平衡ツイスト・ペアー電気通信配線およびコンポーネント規格では、カテゴリ 5e、カテゴリ 6、カテゴリ 6A の配線チャネルに対して直流抵抗不平衡が規定されるようになりました。直流抵抗不平衡のフィールド・テストは依然として必須ではありませんが、この重要なパラメータについて改めて確認し、なぜテストが必要なのか、そしてどのように効果的にテストを行うべきかを見直す絶好の機会です。

PoE スイッチにおける直流抵抗不平衡テストのクローズアップ

PoE 性能にとって不可欠なパラメータ

Power over Ethernet(PoE)はデバイス接続に革命をもたらしましたが、その成功は信号の完全性を維持することにかかっています。初期の 2 ペア 802.3af および 802.3at PoE の時代から、米国電気電子技術者協会(IEEE)は、ツイスト・ペアー・ケーブル内の導体間の直流抵抗不平衡に制限を設け、イーサネット・データへの干渉を防止するよう規定してきました。より高出力の 802.3bt(タイプ 3 および 4)PoE の登場により、すべての 4 ペア・ケーブルを使用することが求められ、直流抵抗不平衡の重要性はさらに高まり、ペア間のテスト要件が追加されました。

直流抵抗不平衡は、従来から業界の配線規格などで明確に規定されてきたわけではありませんが、フルーク・ネットワークスは以前からこれを信頼性の高い PoE 性能のために不可欠な性能パラメータとして認識してきました。そのため、当社の DSX CableAnalyzer™ メタル線ケーブル認証テスターは、IEEE が最初に直流抵抗不平衡を規定した 2014 年以降、フィールドでの直流抵抗不平衡テストに対応しています。また、PoE の安定稼働を確保するうえで、当社が一貫してこのテストを推奨してきた理由でもあります。

直流抵抗不平衡とは?

PoE では、ペアにまたがるコモンモード電圧によって電力が伝送されます。これは、ペア内の 2 本の導体間および複数のペア間で均等に分配される必要があります。そのためには、ペア内にある導体間の直流抵抗および各ペア間の直流抵抗に偏りのないことが前提条件です。

この抵抗に差がある状態を直流抵抗不平衡と呼びます。PoE システムでは、電力とデータを同時に伝送するため、導体間およびペア間の直流抵抗不平衡が大きすぎると、デバイス内部の変圧器が過負荷状態になります。その結果、イーサネットのデータ信号が歪み、ビットエラーや再送信、さらにはリンクの不具合を引き起こす可能性があります。

直流抵抗不平衡の原因

配線システムに直流抵抗不平衡を引き起こす要因はいくつかあります。PoE 機器側の変圧器内部の問題も一因になり得ますが、直流抵抗不平衡の多くは次のような施工方法やケーブル品質に起因しています。ケーブルの最小曲げ半径を超えること、終端点付近でペアのねじれを維持できていないこと、不均一または品質の低い終端処理などは、直流抵抗不平衡を増大させる原因となります。4 ペアの 8 つの導体すべてを同時かつ均一な力で圧接できるパンチダウン工具を使用することで、一貫性のある終端処理を実現しやすくなります。

また、ケーブルの品質が不十分であることも、直流抵抗不平衡の原因となり得ます。導体の直径、同心性(真円度)、形状、表面の滑らかさなどにばらつきがあると、直流抵抗不平衡のリスクが高まります。さらに、銅張りアルミニウム(CCA)、銅被覆鋼線、あるいはその他の非標準導体を使用した非準拠ケーブルは、100% 銅ではないため、導体特性にばらつきがあり、その結果として直流抵抗値が高くなりやすく、直流抵抗不平衡も大きくなる傾向があります。

直流抵抗不平衡の最大許容値とは?

直流抵抗不平衡テストでは、ペア内にある導体間の抵抗差、およびペア間の抵抗差を測定します。理想的にはこの値は 0(完全一致)であるべきですが、実際にはペアの撚り方のばらつきや終端品質の差などにより、ある程度の不平衡が生じます。PoE デバイスは一定の不平衡を許容できますが、性能を確保するためには上限値の規定が必要です。

IEEE 規格に準拠し、TIA-568 規格では、各ペア内の導体間における最大許容の直流抵抗不平衡を、そのペア全体の直流ループ抵抗の 3% または 0.20 Ω のいずれか小さい方と定めています。規格では、ペア間の直流抵抗不平衡の最大値を 7% または 0.20 Ω のいずれか小さい方と定めています。

直流抵抗不平衡のテスト:

フルーク・ネットワークスの DSX CableAnalyzer™ 認証テスター は、直流抵抗不平衡のフィールド・テストをサポートした初の機器であり、配線システムが PoE に適切に対応できることを確認するうえで重要な測定項目として導入されました。当社がこの機能を導入したのは TIA-568.2 で正式に規定される 10 年以上も前のことであり、それまでは直流抵抗不平衡の測定は実験室でしか行えないもので、現場用のテスターでは不可能でした。

DSX CableAnalyzer テスターでは、PoE 対応のデフォルト試験制限(+PoE)を使用することで、ペア内およびペア間の直流抵抗不平衡が自動的に表示されます。テスターは、ペア内の直流抵抗不平衡を測定するために、まず各導体の直流抵抗を個別に測定し、その差分を算出します。次に、その差をペア全体の直流ループ抵抗(両導体の抵抗の合計)と比較します。この処理の流れは、以下の図に示されている通りです。

ペアにおける直流ループ抵抗および直流抵抗不平衡を示す図

各導体の直流抵抗を個別に測定します。直流ループ抵抗は両導体の抵抗の合計であり、直流抵抗不平衡はその差(1.87Ω~1.85Ω)です。

ペア間の直流抵抗不平衡については、DSX CableAnalyzer テスターが各ペアの導体ごとの抵抗を測定し、各ペアの並列抵抗を算出します。次に、各ペアの並列抵抗を他のすべてのペアの並列抵抗と比較します(以下の図では、ペア 1,2 および 3,6 の例を示しています)。

ペアの並列直流抵抗、およびペア間の直流抵抗不平衡を示す図

ペア 1,2 および 3,6 の並列抵抗は、それぞれの導体の抵抗を測定して算出されます。ペア 1,2 と 3,6 間の直流抵抗不平衡は 0.11 Ω であり、これは両ペアの並列抵抗の差(0.33 Ω~0.22   Ω)です。

DSX CableAnalyzer テスターは、直流ループ抵抗、ペア内の直流抵抗不平衡(PAIR UBL)、およびペア間の直流抵抗不平衡(P2P UBL)について、PASS(合格)または FAIL(不合格)の結果を表示しますなお、ペア間の直流抵抗不平衡が PASS となるためには、ペア内の直流抵抗不平衡も PASS となる必要があります。

直流ループ抵抗、ペア内の直流抵抗不平衡、およびペア間の直流抵抗不平衡に関するテスト結果の 6 画面を示す図。

直流ループ抵抗やペア間の直流抵抗不平衡は、ペア内の直流抵抗不平衡が不合格であると自動的に FAIL となります。

直流抵抗不平衡のテストは必須か?

TIA-568 規格で直流抵抗不平衡の規定が追加されたことにより、「フィールド・テストも義務化された」と誤解されがちです。技術的には業界標準でフィールド・テストは必須とはされていません。しかし、これは「テストしなくてもよい」という意味でもありません。

ANSI/TIA-568.2 では、ペアごとの直流抵抗不平衡およびペア間の直流抵抗不平衡の計算値は規定されていますが、フィールドでの測定要件は記載されていません。それらの要件は、ANSI/TIA-1152「平衡ツイスト・ペアー配線のフィールド・テスト機器と測定に関する要件」に記載されています。現時点での TIA-1152 には直流抵抗不平衡のフィールド測定要件は含まれていませんが、今後のバージョンで追加されるかどうかは、今後の動向に注目する必要があります。

直流抵抗不平衡のフィールド・テストは強く推奨されます。しかし実際には、規格が何を規定しているか、フルーク・ネットワークスや PoE の専門家がどのように推奨しているかにかかわらず、顧客が直流抵抗不平衡のテストを要求している場合は、それを実施する必要があります。また、ケーブル配線設備の保証を要求し、ケーブルの製造業者がその保証を得るためにDC抵抗不平衡テストを要求している場合は、それを実施する必要があります。これは他の性能パラメータと変わりません。例えば、顧客または製造業者がエイリアン・クロストークのテストを指定している場合、それも実施する必要があります。そのため、プロジェクト仕様に基づいてどのテストが必要かを明確にし、配線システムの保証を受けるためにも、顧客とケーブルの製造業者との連携が不可欠です。

直流抵抗不平衡テストにはどのくらいの時間がかかりますか?

直流抵抗不平衡のフィールド・テストが必須かどうかについての混乱に加えて、「テストにどれほど時間がかかるか」についても誤解が広がっています。

業界で最も高精度なレベル VI/2G 認証テスターである DSX CableAnalyzer は、恒久リンクのフル・オートテストを約 10 秒で完了します。テスターのデフォルトの PoE+ テスト制限を使用して直流抵抗不平衡を測定する場合でも、追加される時間はわずか 3 秒で、合計試験時間はおよそ 13 秒です。このわずかな 3 秒の追加時間は、将来的な配線システムのトラブルシューティングを回避できる可能性を考えると、非常に有意義な投資です。

当社のアプリケーション・エキスパート、 Jim Davis によるテストの実演動画もぜひご覧ください。

フルーク・ネットワークスは常にお客様をサポートしてきました

10 年以上前から、フルーク・ネットワークスの DSX CableAnalyzer 認証テスターは、直流抵抗不平衡のフィールド・テストをリードしてきました。そして今、最新の TIA-568 規格でこの重要なパラメータが正式に認められたことで、お客様はすでに対応済みであるということです。この重要なテストに対する当社の長年の提唱と取り組みにより、お客様の配線システムは、ギガビット・イーサネットおよび高出力 PoE のいずれにおいても最適な性能を発揮できるよう支援されています。これは、特に高度な Wi-Fi 6/6E および Wi-Fi 7 アクセス・ポイントにとって、極めて重要です。

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