挿入損失 (IL) 対リターン・ロス
2024 年 8 月 14 日 / 一般、学習、インストールとテスト
挿入損失とリターン・ロスは、ツイスト・ペアーのメタルおよび光ファイバー・ケーブル・リンクの性能を評価するうえで、最も重要なパラメータの 2 つです。これらは信号伝送における異なる側面を表しており、メタルと光ファイバーの両方のメディアで測定される内容も異なります。ここでは、この 2 つのパラメータの主な違い、それらが重要である理由、そしてどのように読み取ればよいのかを解説します。
挿入損失とリターン・ロスの違いとは?
挿入損失とは、信号がケーブル・リンクを伝送する際に失われるエネルギーの量を指します。これは光信号、電気信号を問わず自然に発生する現象であり、ケーブルが長くなるほど、損失(減衰と呼ばれる)も大きくなります。また、コネクター、スプリッター、スプライスなど、リンク上の接続ポイントも挿入損失の要因となります。挿入損失はデシベル(dB)単位の正の値で測定されます。
- • 光ファイバー配線システムでは、低品質な部品の使用や、汚れたファイバー端面、コネクターのずれ、曲げ半径の超過といった不適切な施工により、挿入損失が大きくなる場合があります。
- • メタル線配線システムでは、周波数が高くなるほど挿入損失が増加し、主に導体の太さに依存します。導体のゲージ(太さ)が大きいほど、挿入損失は小さくなります。また、メタル線ケーブルシステムでは、温度が高くなることで挿入損失が増加する可能性があり、60W を超える Power over Ethernet(PoE)を供給する複数のケーブルを束ねた場合は、特に注意が必要です。挿入損失とその原因について、詳しくはこちら。
一方、リターン・ロスとは、送信元に向かって反射して戻ってくる信号の量を指し、送信元に向かって信号がどれだけ反射されるかを示す指標です。挿入損失と同様に、リターン・ロスはデシベル(dB)単位の正の値で測定されます。ただし、挿入損失とは異なり、リターン・ロスの値は「大きいほど良い」とされています。信号がまったく反射されなければ、リターン・ロスは「無限大」になります。
- • 光ファイバー配線システムにおいて、リターン・ロスの主な原因は接続点での反射です。そのため、ファイバー・コネクターのメーカーは、各製品ごとにリターン・ロスの仕様値を明示しています。汚れたコネクタ端面、接続部の隙間や位置ずれなども、信号の反射を引き起こす要因となります。製造時に混入した不純物に加え、ファイバーの亀裂、切り口の開放、曲げ半径の超過などもリターン・ロスを悪化させる要因となります。
- • 挿入損失と同様に、メタル線ケーブルリンクでも、周波数が高くなるほどリターン・ロスは悪化します。これは、コンポーネント間のインピーダンス不整合や、ケーブル長に沿った微細なインピーダンスの変動によって発生します。より良いリターン・ロスを実現するため、メタル線ケーブルおよび接続部品のメーカーは、プラグとジャックのインピーダンス整合設計や、ケーブル製造プロセスにおける一貫性の確保に注力しています。メタル線ケーブルにおけるリターン・ロスの原因としては、ケーブルの折れ曲がりや損傷、終端処理時の不適切な作業(ペアツイストの過剰な撚り戻しなど)も挙げられます。リターン・ロスとその原因について、詳しくはこちら。
なぜ、挿入損失とリターン・ロスは重要なのか?
挿入損失とリターン・ロスは、配線システムの健全性を示す重要な指標です。
- • 挿入損失が大きすぎる場合、リンクの終端における信号の強度が不足し、アクティブ機器が正しく信号を解釈できなくなる可能性があります。このような状況は、性能の低下やリンクの不具合につながる可能性があります。そのため、業界標準では、特定のファイバー用途やメタル線カテゴリーごとに挿入損失の上限値が規定されています。
- • リターン・ロスは、反射信号が送信信号に干渉する可能性があるため、非常に重要なパラメータです。リターン・ロスが不十分だと、ケーブルの終端で利用できる電力が減少し、結果として挿入損失が発生することもあります。言い換えると、リターン・ロスの値が高いほど、通常は挿入損失の値が小さくなります。メタル線ケーブル・システムにおいては、リターン・ロスは実質的にノイズの測定です。リターン・ロスが悪化すると、クロストークが増加し、信号の歪みやビット・エラー率の上昇を引き起こす可能性があります。
挿入損失の解釈と測定方法
挿入損失は、TIA や ISO の配線規格に基づくティア 1 認証試験で最も基本的な測定項目とされており、システム保証を受けるためにケーブルや接続機器メーカーが求める基準でもあります。挿入損失の測定には、光損失試験器(OLTS)が使用されます。たとえば、フルーク・ネットワークス CertiFiber® Pro は、リンクの一端から光を出力し、もう一端のパワー・メーターで受信信号を測定して、発信された信号量と比較することで、リンク全体の損失を測定します。OLTS による測定で挿入損失が規定値を超えて認証試験に不合格となった場合は、フルーク・ネットワークス OptiFiber® Pro OTDR のような光反射測定器(OTDR)を使用して、破損・曲がり・スプライス・コネクタなどの特定箇所ごとの損失を分析できます。これにより、損失の原因や正確な発生箇所を特定することが可能になります。OLTS と OTDR の関係について、詳しくはこちら。
挿入損失の測定における基本的な手順は、1 ジャンパー方式です。この方法では、最初と最後のコネクタの損失も含めて測定するため、実際の配線環境をより忠実に再現できます。特にマルチモードファイバーシステムでは、エンサークルド・フラックス(EF)のランチ条件が求められます。これは、光ファイバーへの光の入射条件を制御し、過剰な光の注入による過小評価や、不足する光の注入による過大評価を防ぐためです。
挿入損失は、メタル線配線の認証試験やメーカー保証の取得にも不可欠な性能パラメータです。フルーク・ネットワークス DSX CableAnalyzer™ シリーズのようなメタル線認証テスターを使用すれば、ケーブル・タイプごとに全周波数帯域にわたる各ペアの挿入損失を測定できます。たとえば、カテゴリー 6 システムでは 1~250MHz の範囲で測定され、カテゴリー 6A システムでは 1~500MHz の範囲で測定されます。
光ファイバーおよびメタル線ケーブル・システムにおける挿入損失の測定方法について、詳しくはこちら。
リターン・ロスの解釈
光ファイバー・システムにおけるリターン・ロスは、OptiFiber Pro のような OTDR を使用して、リンク全体を通して測定されます。OTDR は、高出力の光パルスをファイバーに送信します。この光パルスが接続点、断線、ひび割れ、スプライス、急な曲げ、ファイバー終端などの反射要因に遭遇すると、一部が反射して戻ってきます。このすべての反射イベントによる光量と、リンク全体の後方散乱光を合計することで、そのリンクにおける総リターン・ロス値が算出されます。OTDR では、反射が起こる箇所ごとの反射率の値と位置も確認できます。ただし、反射率はリターン・ロスの逆数であり、負の値として表されます。リターン・ロスと反射率の違いについて、詳しくはこちら。
リターン・ロスは、メタル線配線の認証試験やメーカー保証の取得にも不可欠な性能パラメータです。挿入損失と同様に、DSX CableAnalyzer のようなメタル線認証テスターを使用して、各ペアに対して全周波数帯域にわたって測定されます。特定の周波数ポイントでのみリターン・ロスが不合格となった場合、ケーブルそのものの品質問題を示唆している可能性があります。4 ペアすべてが、特に低周波数帯で不合格となる場合は、低品質なケーブルの使用や、ケーブル内への水の侵入が原因であることが考えられます。
光ファイバーおよびメタル線ケーブル・システムにおけるリターン・ロスのテストについて、詳しくはこちら。